【映画批評】 ゾンビは何故走るようになったのか?/ダニー・ボイル監督の『28日後…』とザック・スナイダー監督の『ドーン・オブ・ザ・デッド』

2013.09.18 Wednesday
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    クリストファー・ノーラン製作原案で話題の『マン・オブ・スティール』ですが、映像化困難としばしば云われてきた『300〈スリーハンドレッド〉』や『ウォッチメン』といったアメコミ原作のヒット作で知られる若き俊英ザック・スナイダー監督がメガホンを握っており、以前記事で書いたとおり、この監督にはきれいな浅さとふるさの明確な限界があるものの、現代ハリウッドのリメイク文化を地でいく優秀な監督のひとりです。


    もっとも、ザック・スナイダー監督のほとんどの作品が原作付きと云う数だけの問題ではなく、なにより、処女作がゾンビ映画の父、ジョージ・A・ロメロ監督の文字どおり『ゾンビ Dawn of the Dead』のリメイク作品なわけですからおどろきは驚きですね。ミュージックビデオやCMのディレクターとして若くから実績を積み、古典作品のリメイクをまかされ、社会的な成功をおさめたのですからたいしたものだと思います。作品の質的にも上下の画像のカットをみくらべればまあ、一目瞭然ですね。




    ゾンビ映画に格別の関心をもてない僕のような方は驚かれているとおもいますが、現代のゾンビは走ります。ひとつの怪我やつまずきが仇となってかんたんに命を獲られるぐらいには猛烈に全力疾走をしてくるのが現代版ゾンビです。なかでも、スペイン出身のファン・カルロス・フレスナディージョ監督の『28週後…』のゾンビは凄いですね。凡庸な娯楽映画でありながらも高度な現代性をもっていることもあいまってか、冒頭の丘の家からの生存者の逃走劇はとにかくスリリングのひとことで、笑えます。

    それに対し、所謂ゾンビ映画の基礎を作ったとされるジョージ・A・ロメロ監督のゾンビたちはひじょうに鈍く、弱い。生前の人格を失い、わらわらと群れで動き、頭部を壊さないかぎりはほとんど不死身と云う点にゾンビ特有の怖さやおぞましさがあったはずなのですが、現代ではそれだけではゾンビ業もたちまわらなくなっているのが実情であり、苦境なのです。お馬鹿な問いではありますが、映画のなかのゾンビたちが何故走りはじめたのかと云う素朴な疑問には現代化の問題が深く関わっているのですね。


    ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド.jpg28週後2.jpg


    2004年公開の現代ゾンビ映画『ドーン・オブ・ザ・デッド』はひじょうな成功をおさめた秀作と云えますが、ネット上のレヴューをみるかぎりは賛否両論と云った具合で、リメイク作品の例に漏れず、その批判のほとんどは古きよきゾンビのまぬけなのろまさを懐古趣味で愛でていることによるものです。まあ、ロメロ監督のもとの作品が映像のショック作用だけで構成したナンセンスで粗悪な娯楽物なので、現代化どうこうの前にザック監督が良くしすぎたことは間違いないのですが、リメイク作の全力疾走ゾンビと云う設定に大きな影響をあたえたとされるのが、『28週後…』の前作にあたる、ダニー・ボイル監督のヒット作『28日後…』です。


    何度か書いていることですが、今日の映画業界に、トーキー化、カラー化に次ぐ第3の革命としてデジタル化の波が押し寄せたのはやはり、2000年前後とされており、その先駆的な例は、ラース・フォン・トリアーらの禁欲的な映画運動「ドグマ95」にあります。(渡邊大輔「映画のデジタル化について――『サイド・バイ・サイド』から考える」)すなわち、デジタルハンディカムでの映画撮影をはじめて試みたのが彼らであり、その背景には撮影機材と技術のデジタルによる「民主化」があるですが、このドキュメンタリーに出演し、デジタル化、「民主化」の勢いと抗えなさを熱っぽく語っていたのが、ダニー・ボイル監督そのひとなのですね。


    スマートフォンやタブレットで映画を観はじめつつある若い世代にとって
    フィルムがなくなったって何を嘆き悲しむことがある?





    2002年公開の現代ゾンビ映画『28日後…』は、全編を固定デジタルハンディカムで撮られた低予算ながらも野心的な作品です。早朝の無人のロンドンを主人公が彷徨する場面にその意欲がよくあらわれており、実際芸術映画となってその新奇性故に世界的なヒット作ともなるわけですが、私見ではこの芸術作品も質的にはあくまで粗悪なものにすぎません。本編を観ていただければわかりますが、無人の町を撮っているディテールもとにかく変で、粗雑で、立体的ではないのです。娯楽に堕ちはしますが、僕は続篇にあたる『28週後…』の方を高く評価するのですね。

    そして、ザック監督はこの作品を下敷きにし、ゾンビ映画に高級性を持たせることでひじょうな厚みのあるものにしたのですが、その関係は、1978年公開のロメロ監督の『Dawn of the Dead/Zombie』を下敷きにし、構造的には低級のさらに下へ落としこみ、内容的にはブードゥー教を持ちこむことでより正統的なものにし、舞台を南国にすることでヴェトナム戦争直後の時代性を盛りこんだ、1979年公開のルチオ・フルチ監督の芸術映画『サンゲリア Zombie』に真逆の方向ではありますが似ています。

    ドーン・オブ・ザ・デッド3.jpgサンゲリア.jpg


    もっとも、ザック・スナイダー監督は下敷きにした現代ゾンビ映画『28日後…』にもうひとつ重要な要素を盛りこんでおり、それが、物質性ないし肉体性です。すなわち、逆を云うと、ダニー・ボイル監督の方には物質性がなく、情報化、デジタル化に落としこんだだけのものなのですね。構造的にはそこにこの作品の異様な薄さと粗悪さがあり、内容的には奇妙にも人間がゾンビ化するにあたって落命しないものになっているのです。

    具体的に云うと、ゾンビ映画の基本文法は大量の死者の甦りと、ゾンビになりたくない、させたくないと云う人間の人格的な意志、そして、ゾンビ化の遅延という劇作術です。とりわけ、あとのふたつによりゾンビ映画に物語の結構をもたせることが可能になるわけですが、いずれにせよ、原則はひとつめのルールであり、「甦り」です。しかし、『28日後…』にはこの原則が情報化、粗悪化したかたちでしかありません。すなわち、生者が死ぬと云う尋常の肉体的なプロセスがなか抜きされ、何らかのかたちで体内に感染者の血液がとりこまれるとものの数秒のうちにゾンビ化し、生前の肉体の腐敗と損壊を抜きにして一気に駆けだしはじめるのです。



    僕の過去の批評的なつぶやきを2時間に1度ランダムでつぶやいてくれる批評型自動機械クリボ君もまた、サーヴィスの終了やバグや手違い、そして、悪戯によるデータの消去と云うあやうさのうえでですが、意図的に僕を情報化したキャラクターとして不死の存在であるといえます。同様に、高速化、大量化、多様化の、あらゆる意味での過剰化に特徴付けられる今日のデジタル・ネットワーク時代の根本には、情報化による不死性と脆弱性の抱えこみがあります。それこそがわれわれの生活をデジタル技術革新として具体的に変え、思考と認識とを抽象的に変貌させたのですね。

    そして、ポスト・デジタルの時代、あるいは、ネオ・アトムの時代においてはわれわれが実際に不死になると云う議論があります。発明家のレイ・カーツワイルがその代表的な論客であり、異端の老年学者オーブリー・デグレイもまた、原理的には老化を終わらせることができると云う主張をしています。(「人間は100万年生きられる?!」)作家ではなんと云っても押井守ですが、とはいえ、1978年公開のロメロ監督の出世作『ゾンビ』には、1968年公開の先行作兼処女作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』があります。すなわち、ゾンビが何故走りはじめたのかと云う問いのまえには、ゾンビが何故氾濫しはじめたのかと云うより根本的な問いがあるのですね。それについてはまた、後日。


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    Chika Hitujiya

    羊谷知嘉
    ・作家
    ・批評家
    ・文芸創作アドバイザー
    ・哲学対話コーディネーター

    緒方勇人
    ・1988年生まれ
    ・2009大学読書人大賞最優秀賞
    ・立教大学院文学研究科比較文明学専攻在籍

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